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名古屋高等裁判所 昭和34年(う)387号 判決 1959年9月15日

控訴人 被告人 松尾弘

弁護人 中条忠直

検察官 山口一夫

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人中条忠直及び被告人本人のそれぞれ差し出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

弁護人の控訴趣意一について、

原判決挙示の証拠を総合すると、被告人は小学校時代の同級生であつた福井もと方を訪ね、同女方に数日滞在していたところ、たまたま原判示日時頃同女から近所の風呂屋へ入浴に行つて来るから、しばらくお願いしますと頼まれたので、その不在中ひそかに不法領得の意思を以て整理箪笥等の中から原判示金品を抜き取り、自分の風呂敷に包んでおいたものであることが認められるのである。そしてかような場合、福井もとがしばらく家を留守にしていても、同女方の家具家財が同女の占有の下にあり、所論のように被告人に全財産の保管が委託されたものと認めるべきものでないことは社会通念に照らしてもいうを待たないところである。従つて右認定の被告人の所為が窃盗罪を構成し、所論のように横領罪を構成するものでないことも当然である。原判決には所論のような理由のくいちがいはない。論旨は理由がない。

同三及び被告人本人の控訴趣意について

記録を調査するに、本件は一回の窃盗行為で、被害の実額も今では五、六千円のものであり、且つ被害者は被告人とは小学校の同級生で、寛容な措置を希望していることが認められるから、これに被告人の犯行の動機、性行、現在の心境その他諸般の事情を総合して考えると、原判示その他の前科のあることを参酌しても、原判決の量刑はなおいささか重きに過ぎるものと認められる。論旨はいずれも結局理由がある。

よつて弁護人の爾余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十一条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により直ちに更に被告事件について判決することとする。

原判決が認定した事実を法律に照らすと、被告人の所為は刑法第二百三十五条に該当するところ、原判示前科があるから、同法第五十六条第一項、第五十七条により再犯の加重をなし、その刑期範囲内において被告人を懲役八月に処し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人にこれを負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 小林登一 判事 中浜辰男 判事 成田薫)

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